収穫期の大町梨街道を行く 高 野 史 郎
ナシの収穫期も後半に入った9月下旬、やっと涼しくなったこともあって、3カ月ほどご無沙汰していた大町梨街道へ出かけた。北総線の大町駅から、いつものように梨街道を西に向かって歩き始める。大町会館のサクラと、わんぱくの森ものぞいて、市川大野まで歩くとしよう。
「今年のスイカはちっともおいしくなかった。天候のせいかしら」という話をあちこちの場所で聞いている。近頃のスーパーには1年中、リンゴやカボチャやサツマイモが並んでいて、野菜の旬がわからなくなっている。今年の大町の梨の出来はどうなのだろう? お礼肥えの準備か堆肥を積んだ場所も何カ所か見た。梨農家は、もう来年の準備が始まっているのだ。
いつもの年なら、幸水が終わって、豊水やあきづき、そして新高が店頭に並んでいるはずなのに、シャッターを下ろしている販売所があちこちにあるのに驚いた。
市役所主催の環境フェアや、こどもエコクラブの体験梨狩りなども、すべてコロナ禍で中止となってしまった今年である。
「コロナ対策のため試食のご用意はありません」「品薄のため、予約のお客様のみに販売しております」などの張り紙もある。どうやら今年の異常気象は、梨農家にとっても受難の年であったことにようやく気付いた。
とにかく歩き始めて、梨の販売所に並んでいる品種を確認する。かおりやあきづきを並べてあるお店もちょっとだけあったりする。あちこちの細い路地のような場所に入って、行きどまりの梨畑を見学したりした。もう完全に収穫が終わっている所と、まだ袋掛けしたナシが残っている所もある。
わんぱくの森にも入って、誰もいない雑木林で空を見上げて、秋の気配を感じたりもした。
角右ェ門梨園をのぞいてみたら、ちょうど宇佐美さんが販売所から出てきたところだった。今年の天候異変のお話を聞く。新芽が開く前の早春、霜の害があって、花芽が痛み開花数も少なかった。
梅雨時の日照不足、その後には猛暑と雨が降らない日が続いた。品種による収穫期の違いが、例年とはかなり違ってしまったとのことだった。早春の霜のことなど全然気がつかなかった。地域によってかなりの差があったのだろうか。
街の奥様方から「これから先も異常気象は続くでしょうし、来年は昔の天候に戻るという保証はないんだから、野菜や果物だって、育ちにくい世の中なのよ」などという話を聞いたりする。はて、どうしたらいいのだろう?
スーパーで買い物に来ていた東南アジア系の外人さんが話しかけてくる「とにかく野菜が高くてかなわないよ」と。早朝の収穫作業にかかわる技能実習生の来日予定がだめになったこともあるらしい。
日本列島の南岸に沿って流れる黒潮は、北大西洋のメキシコ湾流とともに、世界有数の海の中の大きな流れだ。深さは1000mにも及び流れの真ん中は秒速2m以上もあるとか。それが2017年ごろから海水温が上昇し大蛇行がひどくなった。魚は意外なほど水温に敏感で、クロマグロの仔魚は25℃前後が適温で、28℃になると死亡率が高まるといわれている。
半面で、かつては死滅回遊魚とか死滅型分布といわれていたスズメダイやハナダイなどの熱帯生まれのきれいな魚たち、夏の勝浦の海中公園でも見ることができる。それらの越冬報告が増えてきている。最近はしばらく潜っていないが、温暖化は水中の生きものにも影響を与えているようだ。
晩生の梨、季節の最後を賑わせてくれる新高の収穫は10月上旬ぐらいまで? どうか高温障害などを起こしませんように! 来年は、梨にとっても明るい年でありますように。